冷徹なカレは溺甘オオカミ
自分で考えたことにこっそりむなしくなりながら、本をバッグの中にしまおうとしたそのとき。



「あ、」

「うわっ、すみませんっ!」



ブレーキをかけた電車が揺れた瞬間、目の前に立っていた女子大生風の女の子が持っていたペットボトルの中身がこぼれて、わたしの本にかかってしまった。

思いがけない事故に、ガーン、とショックを受けたけれど……幸い、かかった飲み物は水だったらしい。

被害はブックカバーだけで済んで、中の本には影響なかったみたいだ。



「ほっ、本……! 濡れちゃいましたよね?!」

「大丈夫よ。気にしないで」



心の中の動揺はしまいこみ、平謝りする女の子に余裕たっぷりに見える笑みを浮かべ、わたしは電車を降りた。


……お気に入りの、ブックカバー……まあ、水だっただけ、ラッキーか。

あの女の子には『気にしないで』と言ったけど、正直、それなりにブルーになってしまった。

人通りの多い駅構内を歩きながら、バッグの中の本に視線を落とす。


カバーは後で乾かしておけばいいとして……このまま本に被せてたら、こっちまで濡れちゃうかもしれないよね。

とりあえず濡れたブックカバーは本から外して、バッグの内ポケットに隔離する。

……会社着いたら、更衣室のロッカーの中で乾かしとこうかな。

そんなことを考えながら、ICカードをタッチして改札を抜ける。
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