冷徹なカレは溺甘オオカミ
テーブルの上に置いたスマホが震える。オレンジ色のランプは、電話の着信だ。

ディスプレイを見れば案の定印南くんの名前が表示されていて、少しだけドキドキしながら、電話に出る。



「もしもし?」

《柴咲さん、俺今店の前に着いたので、出て来れますか?》

「あ、うん。大丈夫」



通話を切って、バッグに手を伸ばしながら立ち上がる。

現在時刻、18時20分。ここでお茶してからわたしの家に行くのかと思って、何も注文しないまま待ってたんだけど……どうやら、この店はあくまでただの待ち合わせ場所だったらしい。

心なし急ぎ足でコーヒーショップを出たら、すぐに印南くんは見つかった。

青いネクタイに、紺色のストライプ柄スーツ。細身のそれは、背が高くてスタイルがいい印南くんにおそろしく似合っている。

彼は出入口ドアのすぐ横に立っており、店内から出て来たわたしに気づいて、視線を目の前の道路からこちらへと移した。

……印南くんの姿を見つけた瞬間、また心臓がせわしなくなってしまったのは、仕方ないと思う。



「印南くん、お疲れさま」

「お疲れさまです。すみませんお待たせして」

「ううん、大丈夫」



首を横に振ったわたしにうなずき、それから彼は腕時計に視線を落としつつ、なんのためらいもなく「行きましょうか」と言う。

そのセリフに一瞬、身体をこわばらせてしまったけれど。

わたしはすぐにうなずいて、印南くんと同じように歩きだした。


……いよいよ、わたしの家に行くんだ。

まあ、今日は、それが目的だもんね。別に、それ以外のことで時間取るようなことは、しなくていいもんね。

そんなふうに考えたら、なぜかちょっとだけ、胸の奥がちくんと痛んだ。

なんでだろう、と思って胸に片手をあてたのと、ほぼ同時。

わたしの斜め前を駅に向かって歩いていたはずの印南くんが、突然立ち止まった。
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