冷徹なカレは溺甘オオカミ
「柴咲さん、ここ入ります」

「へ……?」



間抜けな声をもらしながら見上げた先にあるのは、なんだかオシャレな外観の建物。

さっさと中に入っていく印南くんに倣って、わたしも急ぎ足で彼の後を追った。



「いらっしゃいませ。2名様ですか?」

「はい。予約していた印南です」

「印南さま、お待ちしておりました」



……予約? してたの?

ていうかここ、レストラン?

落ち着いた雰囲気だけど、敷居はそんなに高くなさそうな感じ。

若い女の子たちのグループや、老夫婦の姿もあって、それぞれ楽しそうに談笑しながら食事をしている。


何がなんだかわからないわたしを差し置いて、蝶ネクタイのウェイターさんが歩きだす。

印南くんはそこでわたしを振り返って、まるでエスコートしてくれるみたいにそっと腰のあたりを押した。

その動きに誘われるように足を進めて、ウェイターさんの後を追っていく。



「ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください」



席についたわたしたちに一礼して、ウェイターさんは去っていく。

そこでようやく、わたしは口を開いた。



「印南くん、ここって……」

「俺がたまに来るイタリアンです。あまり気張らないで来れて、安くてうまいですよ」



こともなげにそう話し、向かいの席からメニュー表を渡してくれる。

受け取りながら、思わず目をまたたかせた。



「……予約、してくれてたんだね」

「まあ、まっすぐ柴咲さんのお宅に行って肉体的な意味で食事でも構いませんでしたけど。おなか、すいてません?」

「……すいてます」
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