冷徹なカレは溺甘オオカミ
「お酒、飲むの?」

「まあ、こないだの柴咲さんみたいにフラフラになるまで飲まれたら困りますけど」



淡々と耳に痛いことを言われ、照れ隠しについ睨む。

まったく堪えていない様子で、彼は続けた。



「今日は、めでたい日ですから。今まで閉ざされていた柴咲さんの乙女な部分がようやく開通されるという」

「?!?!」

「そういうとき、普通はお赤飯を食べるものなんでしょうけど。まあ、せっかくこういう店なので、今回はお酒で我慢してください」 



……我慢も何も、わたし、スパークリングワインは大好きですが。

けど待って、なんか今、いろいろと聞き捨てならない言葉が聞こえてきて混乱してる。


唖然としているわたしに何を思ったのか、印南くんが小さく首をかしげた。



「どうしましたか、柴咲さん。あ、ここのお代なら最初から俺が払うつもりでいましたから、遠慮せずに好きなもの頼んで大丈夫ですよ」

「……え?!」



フリーズしていた思考がようやく動きだして、思わず声をあげる。



「……いや、いやいや。普通に自分の分は払うから」

「結構です。ここに連れて来たのは俺ですし」

「後輩に払わせるわけにはいかないよ」

「だってこれ、柴咲さんの開通祝いですから」



開通って……! また言ったわこの無表情男子!!

とっさに言い返すことができず口をパクパクさせるわたしに対し、印南くんはさらに畳みかける。



「避けられないこととはいえ、これから痛い思いをさせてしまうんですから、せめて食事くらいはごちそうさせてください。じゃなきゃ心置きなくぶち抜けません」

「──……」



撃沈。

柴咲 柊華 28歳、真顔でエグい発言をする年下男子に撃沈。

たぶん今のわたし、なんとかメニュー表で顔は隠してるけど、全身真っ赤でプルプル震えてると思う。
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