冷徹なカレは溺甘オオカミ
「……印南くん、ごちそうさまです」



お店の外に出て、ストールを首に巻きつつお礼の言葉を口にする。

食事代は、結局全額彼が出してくれた。そもそもわたしの方からお願いした件なのに、まさかごはんをごちそうしてもらえるなんて申し訳ない……。


その気持ちが、顔に出ていたのだろうか。わたしを見下ろしていた印南くんは、ちょっとだけ首をかしげた。



「もしかしてここ、お気に召しませんでしたか?」

「えっ、まさか……!」



パッと、顔をあげる。

思いがけなくすぐそばに印南くんの綺麗なお顔があって一瞬ビビってしまったけど、気を取り直して首を横に振った。



「すっごく、おいしかった。連れて来てくれてありがとう」



言いながら、わたしは笑う。

だって本当に、彼が連れて来てくれたこのお店の料理はおいしかったのだ。

メインのパスタやピザはもちろん、食後に出てきたデザートのブリュレもサクサクのトロトロで最高だった。


一瞬の間の後、形の良い彼のくちびるが動く。



「なら、よかった」



普通の人なら、ここで微笑みのひとつでも浮かべるのかもしれない。

だけどやはりそう言った彼は無表情で、小さくうなずいただけで。


……でも。



「(……ちょっと、うれしそう?)」



ただの同僚として接していた今までだったら気づかないような、些細な変化。

だけどなんとなく、その目元が少しだけ細められて、彼がわたしの言葉によろこんでいるような気がした。


もしかして長時間一緒にいるうち、印南くんの無表情に慣れてきたのかも。

あ、あれだ、聞き流す英会話的な! イナミラーニング的な!
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