冷徹なカレは溺甘オオカミ
鍵穴に銀色の鍵を入れて回せば、当然のようにカチャンとロックの外れる音が聞こえる。

こっそり息をついてからドアを引いて、わたしは手のひらを差し出した。



「どうぞ、印南くん」

「おじゃまします」



ドアをくぐり抜けた印南くんに続き、わたしも玄関へと足を踏み入れる。

先に彼をリビングの方に行かせておいて、今度は深く息を吐きながら鍵をかけた。

……今まで家族以外男物の靴なんて並んだことのない玄関に、質の良さそうなこげ茶色の革靴が鎮座している。なんという異常事態。

まあ、悲しいかなこれも今日だけ。今回限りのことだ。



「えーと印南くん、ジャケットはこっちにかけておくね。カバンはソファーのあたりにでも適当に置いとくといいよ」

「はい」



リビングに入ったわたしは印南くんからジャケットを受け取り、今は何もかかっていない部屋干し用のハンガーにかけておく。

じゃあわたし着替えてくるから、と言い残してそそくさ寝室へ向かおうとした背中に、彼が爆弾を投げつけた。



「ああ柴咲さん、どうせ着替えるなら、先にシャワーどうぞ」



思わず、持っていたバッグを落とすかと思った。

彼の言葉でピシリとその場に立ち止まったわたしの心臓が、驚くほど活発に早鐘を打つ。

ゆっくりゆっくり後ろを振り返ると、案の定印南くんは、まっすぐにわたしのことを見つめていた。
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