冷徹なカレは溺甘オオカミ
言ってから、彼が何か考えるような素振りをする。



「メイクの件は、それとして。たとえばホテルに行ったときなんかは、ベッドに行く前シャワーで軽く汗だけ流して、終わった後に改めて風呂に入ったりするんですけど」

「ほ、ほう……」

「今回に限っては、きっと柴咲さん、先に髪とかも全部洗っておいた方がいいですよ」



どうして?という疑問を込めて、印南くんを見上げる。

何の感情も読み取れない表情のまま、彼は答えた。



「柴咲さん、初めてなわけですし。コトが終わった後果たしてもう1度シャワーし直す気力と体力があるかどうか」

「……シャワー行ってきます……」

「いってらっしゃい」



印南くんに見送られて、今度こそ寝室へと足を進める。

……なんか、こわい話を聞いてしまった。

数時間後のわたし、ちゃんと生きてるのかな。


寝室に入ってからは手早くお風呂の準備をし、そそくさとリビングを横切って洗面所にこもった。

鏡に映っているのは、不安げな表情の自分。


──今さらなにビビってるんだ、柴咲 柊華。

あんたは、自信を持てないネガティブな自分を変えたいんでしょ?

だから信頼のおける職場の後輩くんを巻き込んでまで、バージンを卒業する手助けをしてもらおうとしてるんでしょ?



「……よし!」



ここまで来たら、もう、腹をくくるしかないんだ。

印南くんには申し訳ないけど、今回だけ、わたしのワガママに付き合ってもらおう。

ぺちんと両頬を手のひらで叩いて、気合いを入れた。
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