冷徹なカレは溺甘オオカミ
いたっていつもと変わらない感じを心がけながら洗面所を出ると、リビングではソファーに腰かけた印南くんがスマホをいじっていた。

近づくわたしに気がついて、顔をあげる。



「柴咲さん、意外と早かったですね」



その言葉にはなんて返したらいいのかわからなくて、手持ち無沙汰に濡れた髪をいじる。



「……印南くんも、シャワー浴びてきなよ」



それじゃあお借りします、と言いながら、彼はソファーから立ち上がった。

スマホをカバンにしまう印南くんの姿に、動揺は見られない。

そりゃそうか、きっと彼は、女の家でシャワー使ったりするのも慣れてるんだ。



「ボディーソープとか、好きなように使って。タオルは、洗濯機の上に新しいの出してあるから」

「ありがとうございます」



洗面所に消えた背中を見送って、わたしははあっと大きな息を吐く。

……普通にできてたかな、わたし。実は心臓ばくばくって、バレてないよね?


寝室とリビングは、木製の引き戸でつながっている。
今は閉じられたそこを開け放って、寝室の電気をつけた。

肩にかけたバスタオルで髪を拭きつつカラーボックスからドライヤーを取り出し、ぼすんとベッドに腰をおろす。

わたしは落ちつかない気持ちで、いつもよりさらに念入りに、濡れた髪の毛を乾かした。
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