冷徹なカレは溺甘オオカミ
「……いけないひとですね」



つぶやいた印南くんがわたしの前髪に触れて、現れたひたいに口づけた。



「そんなこと言われたら、もし途中で『やっぱり嫌だ』って泣かれても、やめてあげられませんよ」



──それでも、いい。

そう思ってしまっているわたしは、おかしいのだろうか。

相手は職場の後輩で、彼は“業務命令”に従ってここにいるだけで。

それなのに完全に心もカラダも許しきってしまっているわたしは、おかしいのかな。


じっと印南くんを見上げていると、その左手がやさしくわたしの右耳横の髪をすいた。

ドキドキとうるさい心臓の音は鳴り止まなくて、けれども不思議と、気分は穏やかだ。



「いなみ、くん」

「……やさしくします。精一杯、やさしくしますから」



その誠実な言葉と瞳に、なんだか泣きそうになる。

両手を彼の首にまわして、今度は自分の方からキスをねだった。


とろけるようなキスを交わした後、いまだ吐息がかかるほどの至近距離で、印南くんがつぶやく。



「それでは、遠慮なく──……いただきます」



そして彼の手が、わたしのパジャマのボタンをぷつりと外した。
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