冷徹なカレは溺甘オオカミ
何か物音が聞こえたような気がして、わたしはフッと意識を浮上させた。

オレンジ色の豆電球しかついていない、薄暗い室内。
少しだけ顔をあげると、ベッド横に立ってワイシャツのボタンを留めていた印南くんと目が合った。



「すみません、起こしてしまいましたか?」



言いながらこちらに近づいて、わたしの顔のすぐそばにしゃがみこむ。

ベッドに横になったまま、ふるふると小さく首を振った。



「だいじょうぶ……」



枕元の目覚まし時計から察するに、どうやらわたしは事が済んだ後、30分ほど眠ってしまっていたらしい。

身体中、あちこちだるい。頭がぼーっとして、まぶたもちゃんと開けてられない。

そして、何より──下半身にくすぶる違和感と身体に残る熱が、先ほどまでの行為を現実だと教えていた。


ネクタイをつけていないラフな格好の彼が、また口を開く。



「俺はもう帰ります。柴咲さんは、ゆっくり寝てください」



そう言って、だけどすぐ、思い直したように視線をリビングの方へと向けた。



「……と、言いたいところですが。俺が部屋を出た後の戸締まりのために、一緒に玄関まで来てもらえますか?」



うん、とうなずいて、ゆっくり身体を起こす。

下着は上下とも身につけているけれど、パジャマは上のシャツだけ。

こんなあられもない格好、普段なら絶対男の人の前でなんてできないけど……今は頭がぼんやりしているせいで、全然気にならない。

ベッドから足をおろすと、まだ熱が残る身体にひんやりしたフローリングの床が心地良かった。
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