冷徹なカレは溺甘オオカミ
テーブルの上にあるグラスを掴んで、そのまま一気に中身をあおる。

ぷはっ、と残っていたウーロン茶を飲み干したわたしは、グラスとプリンの入れ物を持って立ち上がった。



「わたし、そろそろ帰るね」

「あ、俺も。これからまた大学行くんだ」

「えー、ふたりとももう行っちゃうのー?」



不満げにお姉ちゃんは言うけれど、壁にかかっている時計を見ればもう14時半。この後予定があるわたしは、いつまでものんびりしていられない。

使った食器類を洗ってリビングに戻り、床に置いていたバッグを持って立ち上がった。



「それじゃ、ごちそうさま」

「ごちそうさまー」



横に並んだ颯真も、同じように口にする。

今度はお姉ちゃんがクッションを胸に抱いて、なんだか拗ねた表情でこちらを見上げた。



「あーあ、この後予定なかったら、久しぶりにみんなで買い物行きたかったのに」

「ごめん、わたし今日美容室予約してるんだ」

「そっか~」



残念そうなお姉ちゃんに見送られ、颯真とふたりマンションの部屋を出る。

わたしと並んで廊下を歩きながら、彼はスマホを取り出して誰かに電話をし始めた。

会話から察するに、おそらく彼女だろう。



「……今の彼女は、大学のミスコンで1位とった子だっけ?」



颯真が通話を終えたタイミングで何気なく話しかければ、彼はあっさりうなずく。



「うん、そう。けど、すぐ別れるかも」

「はあ? なんで?」

「顔はかわいいんだけど、性格悪いんだよな」

「……そうですか」



颯真は、いつもこんな感じ。

優先順位的には大学の研究とか友達の方が上なんだろうけど、常に彼女は絶えない。我が弟ながら、おそろしいヤツだ。


エレベーターを待ちながら、今度は颯真が話を振ってきた。



「柊華、髪、切んの?」



その質問にちょっとだけドキッとして、だけどそれを悟られないように、いたって平然と答えた。



「うんまあ。前髪とか、ね」

「ふーん」



自分から訊ねたくせにたったそれだけつぶやいて、颯真は前を向く。

深くつっこまれなかったことに心の中でこっそり安堵しながら、わたしはなんとなく前髪をいじったのだった。
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