冷徹なカレは溺甘オオカミ
ふう、と息を吐きながら、目を閉じる。

次にまぶたを開けたわたしはひとつうなずき、更衣室の出入り口へと足を進めた。

だけどドアノブに手をかけた瞬間──廊下の方から自分の名前が聞こえたような気がして、そのままぴたりと動きを止める。

そうっと、ドアに顔を近づけて耳をすました。



「……だろ。だって柴咲さんって、年収1千万以上の男としか付き合わないって話だし!」



あーーハイハイハイハイ。

またわたしのそういう噂ですか。よく次から次へと温泉のように出てくるなー。

とはいえ、その男性の声はドアの向こうの踊り場から聞こえてくるし、このままでは出て行きずらい。

どうしたもんかなあ、とまた前髪を撫でるわたしの存在には気づかず、会話はさらに続く。



「そーだよ、だからおまえとどうにかなるなんて、ありえないだろーが」

「そう言われましても、それが事実ですし」



………ん?

ぴたりと、わたしは一切の動きを止めた。

だって、今、聞こえた声って……。



「では、もう1度言います」



なんの感情もうかがい知れない、淡々とした口調。

こんな話し方をする人なんて、わたしは、ひとりしか知らない。



「先輩たちが見たものに対する、答えですけど。……俺と柴咲さんは、付き合ってますので」
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