冷徹なカレは溺甘オオカミ
相変わらず飄々とした態度を崩さない彼を前に、努めて落ち着いた振る舞いを心がけようとしていた建前はあっさり崩壊してしまう。

つい声を荒らげてしまったわたしを見下ろして、印南くんは小さくため息をついた。



「……仕方なかったんですよ。どうやらシステム課のあのおふたり、金曜日に俺と柴咲さんが手をつないで歩いていたところを見かけたらしくて」

「え?!」



それって……印南くんが連れて行ってくれた、あのレストランから出た後のことだよね?

たしかにあの場所は、会社からそう離れたところでもなかったけど……まさか、九条物産の社員に見られていたなんて。

ネクタイに掴みかかって硬直するわたしをそのままに、彼は続ける。



「手をつないでいるところをはっきり見られているのに、『何の関係もないです』とは言えないでしょう。実際あの晩、言い訳できないことをしたわけですし」

「……う、」

「それならいっそ、付き合ってることにしておけばいいと思ったんです。そういうことなら、就業後たとえ手をつなぎながら一緒に歩いていても問題はない」



……たしかに、理にかなっている話だとは思うけど。

でも、だからって、わたしと印南くんが付き合ってる、なんて……。



「──それに、」



また彼が話し始めたことで、無意識に泳がせていた視線を再びあげた。

無表情で、だけどどこか真剣な瞳で。印南くんがこちらをまっすぐに見つめている。



「それに、これは多少後付けの部分もありますけど……あなたがたいしてスペックが高いわけでもない一介のサラリーマンである俺と付き合ってるということが知れれば、柴咲さんに関する心ない噂も、少しは払拭できるかもしれません」

「………」



いやきみ、なかなかにハイスペック男子だと思うけどね。

ウチの会社の女性社員、影できみのこと『無表情王子』(これ褒め言葉か?)とか言ってるからね。
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