冷徹なカレは溺甘オオカミ
……でも。



「……わたしの、噂?」



印南くん、そんなこと、考えてくれたの?

金曜日のあの夜、おいしいイタリアンを楽しみながら、全然楽しくないわたしの黒い噂の話は、ちょこっとだけした。

入社直後わたしに告白してきた先輩が、お付き合いを断った腹いせに流したみたいなんだ、って。

あの当時は「常務の愛人」って言われてたのに今じゃ「社長の愛人」なんだから、わたしも出世したものだよね、なんて。

そんなふうに、お酒が入った流れの笑い話で、軽く話しただけなのに。


印南くんは、そんなことまで、気にしていてくれたの?



「まあ、あくまでフリというか、一時的なものですけど。本当に柴咲さんにすきなひとができたとき、困りますから」

「………」

「でもどうですか? 俺が、柴咲さんの偽彼氏。悪い話では、ないと思うんです」



って、もうあのふたりには『付き合ってる』って言ってしまってるので、今さら取り消しても面倒なことになりそうですけど。

やはり悪びれもせずそう言って、だけどわたしの言葉を待つように、じっと見下ろしてくる。


……変な話だ。ただ『バージンをもらって欲しい』、っていう無理やりな業務命令から、今度は偽の恋人になるなんて。

わたしは、印南くんを巻き込んでしまっている。自分の勝手な都合を、彼に押しつけてしまっている。
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