冷徹なカレは溺甘オオカミ
少しの、沈黙。

ほら、こんなときわたしは、気の利いた言葉なんて出てこない。

きっとお姉ちゃんなら、「感じ悪くしてごめんね」って、素直に謝れるのに。

きっと颯真なら、「そういえばこないださあ」なんて、うまく話題を変えられるのに。



「……仕方ないですね」



ため息とともに吐き出されたそのセリフに、びくっと肩がはねる。

お弁当箱に落とした視線をあげられないわたしの隣りで、印南くんがキャスター付きの椅子をこちらに向けたのがわかった。



「今度から俺が、柴咲さんと一緒に昼メシ食べます」

「はい?」



取り繕う間もなく、反射的にもれたのは間抜けな声だ。

ぽかんと顔をあげたわたしを見下ろして、印南くんは首をかしげる。



「なんですか。何か問題ありますか?」

「問題っていうか……だって印南くん、いつも矢野さんたちと食べに行ってるじゃない。なのに急に、わたしと食べるなんて言ったら、」

「別におかしくないでしょう。俺たちは“付き合ってる”んですから」

「いや、おかしいでしょ……」



そうだよ、だって本当は、わたしたちは付き合ってなんかいないんだから。

あれは一時的についた印南くんの嘘であって。先輩たちに問い詰められたあの場を切り抜けるためだけに、使っただけで。

なのにわざわざ、それを裏付けるパフォーマンスみたいなこと、今さらしなくてもいいと思うんだけど。
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