冷徹なカレは溺甘オオカミ
客船ターミナルへは、連絡通路を通って運河沿いに歩いていくと、すぐに到着した。

チケットカウンターで乗船手続きを済ませ、さっそくわたしたちは大きなクルーズ船へと乗り込む。



「……すごい。ホテルみたい」



豪奢なシャンデリアが輝くロビーに圧倒されて思わずぽつりともらせば、隣りの印南くんは「そうですね」と冷静に返した。

彼もクルーズ船に乗るのは初めてだと言っていたけれど、それでもその表情に驚きや感動などの変化は見られない。

……なんか、印南くんといると自分がすごく子どもっぽく感じられるんだよなあ。

でもでも、こんな豪華な船で食事なんて、めったにないことだし!

とりあえず、チケットをくれた矢野さんに早くいいヒトが現れるように拝んどこ。



「柴咲さん、なにやってるんですか。レストランは2階ですよ」

「あ、うん」



両手を顔の前で合わせていたわたしに、なんだか呆れたような調子で声をかけた印南くん。

スタスタ歩みを進める彼を追いかけて、これまたきらびやかな造りの手すりに触れながら階段をあがる。


階段をのぼりきったところにあったのは、ホテルの披露宴会場の入口にあるような大きなドアだ。

今は開け放たれているその場所が、ディナー会場になっているらしい。


この船にクロークはないから、上着は自分で持ってなきゃいけないんだよね。

会場に入る前、わたしはようやく、きっちり着込んでいたトレンチコートを脱いだ。
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