冷徹なカレは溺甘オオカミ
コートを右腕にかけたわたしを見下ろして、印南くんが口を開く。



「さすがですね、柴咲さん。お綺麗ですよ」

「……ありがと」



淡々と褒められ、むずがゆいような力が抜けるような、なんとも微妙な心地になりながらお礼をつぶやいた。


事前に調べたクルーズ船のホームページには、ドレスコードについて意外にも『カジュアルな服装でおいでください』とあった。

だけどまあ、きっと印南くんはスーツかジャケットで来るんだろうと思っていたから、一応それに合わせた格好だ。

淡いピンク色で、腰あたりにフリルの飾りがあるチューリップスリーブのワンピース。

黒の薄いストッキングに、かかと部分にリボンがついているパンプス。

髪型はアイロンで大きめにカールさせてから、簡単にサイドアップにした。

それにパールネックレスと黒いクラッチバッグを合わせれば、それなりにキチンと見えるよそいきコーデの完成だ。


……社会人としてはあたりまえなのかもしれないけど、以外と印南くんって、しっかり社交辞令言うよね。

まあ、やっぱり相変わらずの無表情だから、言われた側としてもあっさりお礼返すだけになるんだけど。

わたし、「綺麗ですね」とか、言われ慣れてるはずなのに。なぁんか印南くんにそういうこと言われると、妙にむずむずするんだよなー。

アレか、褒めてるはずのそのセリフに、表情が伴ってないからか!


つい口がへの字になってしまっているわたしに思うところがあったのか、印南くんが小さく首をかしげた。
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