この恋心に嘘をつく
あんな高級車に乗ってて、こんな上等なスーツを着た人が、平社員なはずない。
「そう。これから会社に戻るとこ」
(会社員……というよりは、もっと上の役職っぽい)
見たところ、30は過ぎているだろう。
左手の薬指に指輪はないから、独身――恋人はいるかもしれないが。
「俺の顔に、なにか付いてる?」
「え? あ、すみません……」
ジロジロ見ないよう気をつけていたのに、いつのまにかしっかりと凝視してしまっていた。
気まずい。
コーヒーはもう空だから、飲んで誤魔化す、なんてこともできない。
沈黙の訪れに、凛子は思い出したように口を開いた。
「そういえば、こんな風に会話が途切れて、静かになった時のことを、天使が通る、って言いますよね」
「……」
男性が、少し驚いたような顔をした。