恋、物語り
今日は午前で終わる始業式。
さすがにほとんどの生徒は帰宅していた。
あまりに遅すぎる気がして、私はもう一度上靴に履き替えて教室に向かった。
彼の教室は階段をのぼってすぐのところ。
ユウコの友達がいるかもしれないと思ったけれど、廊下に友達はいなかった。
…教室を覗くと何やら揉めている。
気付かれないようにソーっと覗いたら声が聞こえた。
ーーーー…
「お願い、一回でいいの。
アヤちゃんがいるのはわかってるけど、お願い」
「アヤがいるから無理。
ていうか、アヤがいなくても無理だよ。
俺たち友達じゃん」
「友達って思ってるのはコバだけ。
私はずっと好きだったの…。
お願い、初めてはコバとって決めてたの。
一回でいいの。軽くでいいから……」
ーー…『お願い、キスして』
頭が割れそうになった。
どうして、こんなことになってるの?
早く、早く断って。こっちに来てよーー…
「ユウコ、俺には本当に無理。
アヤを裏切れない。
ここに数分ユウコといるだけでもアヤは嫌がるんだ。
…ごめん。もう行くから」
彼はカバンを肩にかけて教室を出ようとした。
けれど、その彼の腕にユウコが抱きついた。
もう見れなかったーー…
私は足早に玄関へと引き戻した。