恋、物語り



「……キスして」

彼を睨むように見つめる私はとても滑稽だろう。
「え…」と怯んだ彼の顔は、いいの?と言ってる気がした。


目を閉じると、彼は私の頬を触る。
肩が上がる。

目を瞑っていても、わかる。
彼が近づく様が。



ーーーー…

『あの…好きです』
『今日会うの初めてだね』
『俺振られるんだよね?』
『好きだよ』
『俺のそばにいて』
『やべー、理性飛びそう』

色んな彼の顔が次から次と浮かんでは消え、浮かんでは消え…
私の頭に幸せが蘇る。

けれど、その片隅で想像してしまう。
見てはいない彼とユウコのキスしている様を。


ゆっくり近づいて、私を抱きしめた彼が、唇を私の唇を落とす。
そう、まるでスローモーションのようにゆっくり。



……虚しい、キスだった。
心が満たされない、そんなキスだった。



「…ふ……ふぇ…」
情けなく声を漏らして私は泣いた。
彼はずっと「ごめん、アヤ、ごめん」と謝って抱きしめてくれていた。


けれど、空虚感が拭えない。
近づいたはずだった彼と私の気持ちが
どこか離れていくような感覚に陥ってしまったからーー…

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