恋、物語り



カーテンの隙間から光が射し込んだ。
午前7時。
もう一度布団に顔を入れて光を遮断する。

学校に行く準備をしなきゃ…
そう頭では思っているのに、目があかない。


トントンとドアが叩かれた。
「アヤ?ご飯出来てるって!」
起こしに来たのは姉だった。

「んー…もう起きる…よ」
そう返事をしてからには起きなくては。
重たい体を無理矢理縦にする。


伸びをしてからリビングに向かった。
少し焦げたトーストを私の目の前において
「また焼きすぎちゃった」と可愛らしく笑う母。

「頂きます」と呟いて焦げ臭いトーストをかじった。


隣でコーヒーを飲んでいた姉が唐突に言葉を発した。
「そういえばアヤ?昨日の夜話してた男の子って彼氏?」

「んっ!ゴホッゴホッ!!」
焦げたトーストは容赦なく喉を刺した。


「え!アヤ彼氏出来たの!?」と嬉しそうな母。

読んでいた新聞をシワシワになるまで握りしめて
何かを言いたげな父。


声を出したいのに上手く出てこない私の口は
パクパクと魚のように動いているだけだった。



「あんな夜に会いに来てくれるなんて
アヤ愛されてるじゃん」

「ち、違うよ!彼氏じゃないよ!」
やっと声が出た。

「え?違うの?…じゃあ誰?」


誰と言われて返答に困る。
彼氏ではないのは確かだけど
友達と呼んでいいものでもない気がする。

好きな人と聞かれても困るし
まして“私のことを好きな人だよ”なんて
そんな自意識過剰なこと
口が裂けても言えない。



「同じ高校の人」

我ながらバカな返答だと
赤面してしまった。



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