恋、物語り



「……帰る」
一言呟いて足早にその場を後にした。
みんなが私を呼ぶ声が聞こえたけど、振り向かなかった。


……涙が出る。
頬を伝うその涙は、止まることなく溢れてしまった。
止まれ、止まれーー…そう願ったりけれど、その願いはことごとく裏切る。

夏の夜。
彼と…小林くんと話した最後の夜を思い出す。
暑い夜だったのに、体は冷えていた。

まさに、今まさに私の体は冷えている。


私、悪いことした?


小林くんを好きになりたいと思った。
でも、突然現れた中島くんに恋をした。
私の感情を操れるのなら
誰か操って弄んでくれて良い。



「…っ、グス…」
涙を賢明に拭っても
拭っても、拭っても…止まらない。


ねぇ、誰か、私を救って。

< 59 / 126 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop