恋、物語り
「……アヤ!」
人混みから微かに聞こえた声。
私を呼ぶ声。
後ろを振り向いたけれど、そこには行き交う人の姿しか見えなかった。
耳を澄ます。
「アヤ……」
やはり聞こえる、私の名を呼ぶ声が…。
声のする方は、後ろではなく前だということに気が付いてゆっくりと前を見る。
ーー…どうして…?
「アヤ、大丈夫?」
私を見つけるのは、いつだって彼。
「こば、小林…くん」
さっき、バイバイってしたよね?
私のこと『立花さん』って、呼んだよね?
私、彼のことをフったよね?
「どうして…?」
声が漏れる。微かに、けれど鮮明に。
ねぇ、なぜあなたは私を見つけられるの?