恋、物語り



聞いたんだけど…?何を?
目が大きく見開くのがわかる。


「アヤ、俺のこと…
好きになりたいって言ってくれたんだってね」


ドクンーー…
鼓動が波を打つ速さが止められない。
顔が赤く染まる。


「俺、どうして振られたの?」

理由を求める彼。
うまく言葉に出来ない。


真っ直ぐな眼差し。
嘘はつけなくて。
でも、言葉にするのが重たかった。
声が、出てこなかった。


「……」

黙る私を見て彼は
「…なんて、ね」
と、冗談っぽく告げる。


見上げた彼の顔は笑っていた。
けれど、とても悲しそうだった。


「…行こう。」
そしてまた歩き出す。

蝉なのか、何なのか、虫の鳴く声が耳に留まる。
それで良かった。

なのに、彼の言葉が頭を巡る。



ーー…『俺、どうして振られたの?』

答えられない私はとてもちっぽけな人間に思えた。

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