恋、物語り
家につくのはあっという間だった。
「じゃあ、また。おやすみ」
微笑んで私を見る彼の顔は外灯に照らされて良く見えない。
「うん、ありがとう。おやすみ」
小さく手をふって彼が行くのを見送る。
彼は、30メートル程先に行った角を曲がる前に、もう一度こちらを見た。
また、小さく手を振る。
彼も振り返してくれた。
ーー…『俺、振られるんだよね?』
彼はいつだって
ーー…『俺、どうして振られたの?』
そう、いつだって真っ直ぐに私を見ていた。
求める答えを発さない私に対して、いつもいつも真っ直ぐに接してくれていた。
逃げていたのは、私。
下唇をグッと噛んだ。
痛さは感じなかった。
一度、玄関を握った手を離して
私は走った。
下駄が邪魔で上手く走れない。
けれど、下駄を脱いでまで走ることは出来ない。
いつも、そう。
私はいつも一歩引いてしまう。
追いつけ、追いつけ……