恋、物語り
彼のクラスがザワザワし始めた。
彼は友達に別れを告げて、一目散に私に向かってくる。
「アヤ、お待たせ」
彼はいつもと変わらない笑顔を私に向けてくれた。
先ほどの不安が少し無くなる。
そんな威力をもつ、彼の笑顔が好きだった。
「お昼にマックでも買って帰ろうか」
「うん、あの…早く行こう…」
ユウコに呼び止められるのではないか。
そんな思いから彼を急かす。
「アヤ?どうしたの?そんな俺と2人になりたいの?」
悪戯っぽく彼がからかって笑う。
「え!…そんなんじゃ…」
そんなんじゃないよ。と言いかけた時
「コバ!」と、彼を呼ぶ声が聞こえた。
声の主は想像していた通り、ユウコだった。
「ごめん、ちょっと話しあるんだけど、いい?」
ユウコの顔は真っ赤に染められていた。
「ユウコ。話し?…あ、」
彼は私を見て「行ってきて良い?」と申し訳なさそうに言う。
以前、私が彼の部屋でユウコと2人になるのが嫌だと言った。
もしかしたら彼女の気持ちは彼にはもう分かっているかもしれない。
「うん、玄関で待ってる」
行っちゃダメだという権利はない。
足早にその場を後にした。
本当は覗いていたいけど、その行動はユウコの気持ちを踏みにじるような気がして出来なかった。