痛々しくて痛い
「『同期に対してただ仕事に関する相談や確認をしてるだけ。自意識過剰。勘違い男』とか返しやがった」

「そ、それは…」


生まれてこのかた男女交際などした事はなく、その前段階の駆け引きの仕方さえ良く分かっていない私だけれど、渡辺さんのそのやり方はどの角度から見ても相手を振り向かせるどころか、逆効果にしかならない最悪なもののように思う。


それとも、『どうせ振られるんならとことん嫌われてやれ』とでも考えたのだろうか。


「山本と高橋も渡辺の事を後押ししてるような感じだったし、こりゃまともに取り合ってても無駄だなと思って、アイツらとは距離を置く事にしたんだ。研修期間も残り少なくなってたし、配属先もそれぞれバラバラだったから、まぁ、ここで仲違いしても、さほど影響はないよな、と」

「全然気が付きませんでした…」

「そりゃあ、周りに目がある時は無難に対応してたから。でも、絶対にこっちからは近寄らなかったし、メールと着信は完全に無視してた。あっちも、さすがに入社早々目立ったトラブルを引き起こす気はなかったみたいで、何も言って来なかったしな。『何だ。あっけなく解決したじゃないか』なんて安心してたら、あのアルバム事件だよ」


「事件」という表現に、ギクリとしたのと同時に私の胸はひどく痛んだ。


やはり麻宮君の中では、あの日の出来事は、忌まわしいものとして記憶に刻まれているのだなと。
< 108 / 359 >

この作品をシェア

pagetop