痛々しくて痛い
翌日、茶器当番の為、いつもより早めに出勤すると、すでに綿貫が自分のデスクに腰かけていた。


「…はよー」

「あ、おはようございます」


振り向き、笑顔を浮かべてそう答えたあと、彼女は姿勢を前に戻す。


自分のデスクに向かいながら横目でチラリと確認すると、綿貫は机上に広げた雑誌サイズの本を熱心に眺めていた。


あちこちに散りばめられている写真を見る限り、どうやら編み物の解説書のようだ。


「ずいぶん早いんだな」

「あ、うん」


端末の電源を入れながら問いかけると、綿貫は顔を上げ、視線を俺に合わせて返答する。


「前回の茶器当番の時、前々回よりさらに早い電車に乗ってみたら、すごく快適だったから。もう、毎日その時間にしてしまおうと思って」

「そーなんだ?でも、だいぶ早起きしなくちゃいけなくなって、大変じゃね?」

「ううん。その差はせいぜい20分くらいなので…。ゆったりとした気分で通勤できるから、むしろ精神的には楽です」

「ふーん…」


そう呟き、一拍置いてから続けた。


「…で、こっちに着いてから、そうやってのんびりとおやつタイムを楽しんでるって訳だ」


雑誌の横に置かれているチョコレート菓子の小袋と、紙パックのジュースを目で示しつつそう言うと、綿貫は「はい…」と照れくさそうな笑みを浮かべながら肯定し、雑誌を閉じた。
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