痛々しくて痛い
その後も顔を合わせる度に気さくに声をかけて下さって、お二人のお陰で接客業務の楽しさに目覚めたと言っても過言ではない。


私にとっては大恩人だ。


「たとえば『今日は綿貫さんは?』って聞かれて『お休みですよ』って答えたら、後日改めていらしたりしてね」

「そうだったんですか…」


そんなお二人についての新たに知ったエピソードに、目頭がじんわりと熱くなってしまった。

ああ。これじゃあますます、ここから離れるのが辛くなってしまう。


「店内ディスプレイの制作や、各教室の運営なんかはもう、反対に私達の方が綿貫さんに頼りまくってる感じだもんね。そういう勤務実積はちゃんと本部に報告してるから。当然、人事は把握してるハズよ」


洗い終えたカップを一旦水切りカゴに置き、布巾を手に取りつつ店長は言葉を繋いだ。


「それらの判断材料から、今回綿貫さんは新部署のメンバーに抜擢されたんじゃないかと思うの。だから『私なんか』ってネガティブにならずに、胸を張って、ここから巣立って行って欲しいな」


カップを食器棚に仕舞い、布巾を所定の位置に戻すと、店長はクルリと勢い良く振り向き、私の傍まで歩を進めた。


「綿貫さんがいなくなっちゃうのはすごく寂しいし、あなた自身も、慣れた場所から去らなくちゃいけないのはとても悲しいだろうけど、真々田屋で働く以上乗り越えなくてはいけない試練だものね」

「はい…」
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