痛々しくて痛い
「一旦は全額負担になってしまうだろうけど、後日提示すれば差額は返金してくれるよ。突然具合が悪くなって病院にかかる場合も当然ある訳で、そういう人が、その日必ず保険証を持ってるとは限らないんだからさ。その点医療関係者は心得てくれてるよ」

「もし金銭的に不安なら、私、いくらか貸すけど?」

「あ、いえ。銀行のカードを持っているので、帰り道で下ろせます。それに8時までならまだ充分余裕が…」

「いやいや、それは診察時間だから。受付はもっと早く締め切っちゃうかもしれないし、なるべく早く行った方が良いよ、愛実ちゃん」


皆さんにこう熱心に勧められてしまっては、これ以上抗うのは難しかった。


それに、やはりせっかく調べてくれたそのデータを活用しないのは申し訳ないし。


「…すみません」


なので私は覚悟を決めた。


「それでは、お言葉に甘えて…」

「うん。お疲れ様」

「また月曜日に」

「気を付けて帰ってね」


染谷さんと伊織さんと颯さんがすかさず返答してくれる。


……だけど、麻宮君だけは終始無言だった。


私は出入口まで歩を進め、ドアを開けると、そこで振り返り、改めて「お先に失礼します」と挨拶をしてから部屋を後にした。


誰も私のこと、責めないんだな…。


ロッカールームへと入りながら考える。
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