痛々しくて痛い
基本オタク体質で『決められた通りに黙々と指先を動かす』という作業が苦にならないというだけの話だ。


机上の訓練で上手くできても、実際の業務になるとパニクって、グダグダになるんだろうな、私のことだからどうせ。なんて、ネガティブに考えていた。


だけど…。


「私達は高い倍率を勝ち抜いて真々田屋に集った、いわば戦友だもんね。中々話しかけるタイミングが掴めなくてこんな時期になっちゃったけど、最後に良い思い出作って笑顔でお別れしようよ。ね?」


渡辺さんにそんな風に評価してもらっていたなんて、とってもとっても嬉しかった。


『私とは相容れないタイプの人』と勝手にカテゴリー分けして、極力関わらないようにしていた事が、本当に情けないし申し訳ないと思った。


「う、うん、分かった」


罪滅ぼしという訳ではないけれど、私は渡辺さんの申し出を快く受け入れる事にした。


「明日、さっそく、持って来ます」

「ホント!?ありがとー」


満面の笑みを浮かべてそう礼を述べたあと、渡辺さんは「あ、私も歯を磨かなくっちゃ。先行っててー」と慌てて洗面台の前まで移動した。


私もその場から歩き出し、歯ミガキの準備を始めた彼女の背後を通りすぎる。


ドアに手をかけた所で歯ブラシをくわえた渡辺さんが鏡越しに手を振ったので、ペコリとお辞儀をし、化粧室を後にした。
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