あなたと月を見られたら。
へぇ…。好きなカップで好きなコーヒーが飲めるんだ。
女の人って自分好みのモノに囲まれてると幸せだもんね。しかもそれが可愛くて高級なら尚のこと。淹れてるのは同じコーヒーでも器が違うだけで特別に感じるし、きっと何倍も美味しく感じちゃうと思う。
っていうかさ?
それに気づいて、それを実行しちゃう辺り、やっぱり…龍聖は女タラシだと思う。
女の人の思考回路がわかってる、っていうのかな。よく行動を掴んでる、っていうのかな。こういう細かな、些細な女の欲望に気づいて、そそくさと実行してる辺りがいやらしい。
相変わらずの抜け目なさに感心するやら辟易するやら、お仕事の話をしながらコーヒーが来るのを待っているとコポコポとサイフォンの中のお湯が沸き立つ音が微かに耳に聞こえてきて、コーヒー豆の香ばしい匂いが立ち込める。
いい匂い……
鼻先をくすぐる香ばしい香りに心が少しホッとする。龍聖の淹れるコーヒーの香りに包まれながら玲子先生と原稿の打ち合わせをしているとツカツカと靴の踵が鳴る音が微かに聞こえてきて
「お待たせしました。」
コーヒー片手に龍聖が、あの嘘くさい笑顔をたたえながらやってきた。