あなたと月を見られたら。
白地に赤でデザインされたエルメスのカップに注がれた玲子先生のホットコーヒーとバカラグラスに入れられた私のアイスコーヒー。
不覚にも「わぁ!」と感嘆の声を上げた私の方を見て
「お気に召していただけて光栄です。」
ニッコリ笑うと龍聖はスッと手を伸ばしてテーブルにコーヒーを置いていく。その笑顔と仕草に不覚にもドキッとしてしまった私。
えっ…ドキッ?!
だ、ダメだって、美月!
あいつの本性は愛のない男なんだから!
アイツは観葉植物よ、観葉植物…っ!見てるだけ、見てるだけ………っ!
自分にそう言い聞かせてグッと手のひらを握りしめる。そんな私をよそに龍聖は玲子先生とほんの少し言葉を交わして「では、ごゆっくり」そう言ってその場をスッと後にした。
「ここのコーヒー美味しいの。マスターもいい男だし、カップも高級なら豆も高級。インテリアも凝ってるし…大人の社交場って感じで気に入ってるの。」
玲子先生に促されてアイスコーヒーに手をつけるとストローを回した瞬間に芳醇な香りが鼻腔を刺激する。
口をつけると雑味のないとても香り高いコーヒーの味が口の中に広がって、ホッと心がゆるまっていく。そこには舌を刺激する苦みや刺激は何一つない。ただ、驚くほどに美味しいコーヒーがあるだけだった。
「美味しい…」
無意識の中で私はそう呟いてしまった。
しまった!
そう思った時には、もう遅い。
「よかった。美月ちゃんに気に入ってもらえて。これから打ち合わせはこのお店にしましょうね。」
玲子先生はニッコリと微笑んでこんな恐ろしいことを言い始めたのだった。