あなたと月を見られたら。


悪魔に日本語は通じない。怒れる私がギロリと睨むと

「俺の経験上タフな人は誰しもいい意味で鈍感力があるよ。」

「どういうこと??」

「美月は周りに流されず、揺らがず、人の意見に流されず、あるがままを受け入れて、いつも自分で感じたこと、考えたことを口にするだろ?それって凄いコトだ、っていつも思ってるよ?」

悪魔は爽やかにこんな言葉を口にする。



その言葉に一瞬、怒りが溶けて振り上げた心の拳がヒュンッと音を立てて振り下がった私。


「美月のそういうところは尊敬してるし、そういうところに何度も救われてる。昔も…そして今も、ね。」


その言葉を聞いて『なんだ……バカにされてたワケじゃないのか。』って変に納得してしまった、私。でも、それがわかると今度は不器用な悪魔が可哀想に見えてきた。


ーー本当…言葉足らずなんだから。


頬に当てられた手に指を寄せ、彼の骨ばった手のひらをそっと握りしめると、龍聖は安心したように穏やかに微笑む。


サラサラと夏の風に舞う木々の音。遠くには興奮して遊ぶ子どもたちの声と大人たちの笑い声。暑さに負けじと鳴く蝉の声。


そんな夏の音を耳にしながら。二人で見つめあったまま頬に当てられた手を握りしめていると、龍聖はゆっくりと起き上がって空いている方の手で私の髪に指を絡める。それはそれは愛おしそうに。


耳に入るのは爽やかな木陰の夏のBGM。それらを聞きながら言葉もなく見つめ合う、私と龍聖。


龍聖は涼しい目をして私の瞳の奥の奥を探すように見つめると、瞳の引力に引き寄せられるように私に顔を近づける。


その動きはまるでスローモーションのようにゆっくりで、受け入れることが当然の行為のように思えて、私もゆっくりと瞳を閉じた。


彼の気配が近づく度に、微かにコーヒーの匂いが鼻先をくすぐる。すっかり龍聖の香りの代名詞にもなってしまったその香りに安心してると

「好きだよ、美月…」

唇が触れる直前、龍聖はこんな不意打ちのような言葉を口にする。


その言葉が、その気持ちが嬉しくて、私はとても幸せな気持ちになった。そんな幸せな気持ちに浸りながら受け入れたキスは何物にも代え難い、とても素敵なキスだった。

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