あなたと月を見られたら。
脇目もふらずに走っていると遠目に龍聖のお店が目に入ってきた。ドアにはcloseの看板が出ていたけれど、小さなガラス窓からチラチラと揺れうごく影が見える。
きっと…龍聖が後片付けをしてる最中なんだと思う。
私はハァと大きくため息を吐いた後、ゆっくりとドアノブに手をかける。PULLと書かれた白いペンキで塗られたドアをゆっくりと押すと、キィ、と小さな音を立ててドアが開いた。
「あ、あの…。ペンを探してるんですけど落ちてませんでしたか?スワロフスキーのボールペン…なんですけど…。」
オズオズと尋ねると、突然現れた来訪者に龍聖はとてもびっくりしていたけれど
「ありますよ?こちらのペンですか?」
あの嘘くさい笑顔を向けて、私の探していた大事なペンを取り出した。
龍聖の差し出したボールペン。それはまさしく私の探し求めていた物で
「よかった…!
ありがとうございます!」
安堵の笑みを浮かべてペンを受け取ろうと手を伸ばすと
「タダでやるわけにはいかないな。」
龍聖は手をサッと引いて、私のペンを自分の頭上に持っていく。とうぜんのことながらペンに手が届かなくて困る私。そんな私を見て意地悪くニヤニヤ笑う龍聖。そんな態度に唖然としていると
「そうだなぁ…
キスしてくれたら返してやるよ。」
「はぁ?」
「いいだろ?昔付き合ってた仲なんだし、そういうことしてくれても。」
龍聖はこんな頭のおかしなことを言い始めた。