あなたと月を見られたら。
相変わらず蛇の目をして睨みつける彼女。お金のない男はクズだ!と言い、龍聖からお金を取ったら顔だけしか残らない、と暴言吐いたこの人が……龍聖のお母さん。
私は後ろをチラリと振り返り、龍聖の顔を見つめると
「ハァー。」
盛大なため息を吐き出した。
コレは…歪むわ。
この性格になってしまったのも頷ける。だってさ?お母さんの性格自体が歪んでるもの。自分の子どもの、しかももう30代の息子に対してこの扱いって…なんだか異常だ。
私の親なら私に対して「クズ」だなんて罵声は浴びせない。だって私の母は女である自分よりもお母さんである自分を優先してくれる人だし、、、普通の良識ある人は使わないよ、その言葉。
それがポンッと出てくる時点でこの人は性格が破綻してる。
ハァ……、諸悪の根源はこの人だったんだね…。
とっても残念な気持ちになって肩を落とすと、龍聖はにっこり笑って
「ってことでサッサと帰ってくれないかな。俺たち、大事な話があるからさ?」
お母さんにそう告げる。
「は??私に帰れ、っていうの?!」
「うん。ハッキリ言って居座られても迷惑だから、サッサと帰ってくれないかな。」
龍聖が作り笑顔でニーッコリと微笑むと彼女は
「ムカつくわね!」
と一言だけ吐き出して財布の中から一万円札を取り出す。テーブルの上にそれをポンッと置くと
「私も仕事があるから帰るわ。
でもね?転職の件、諦めたわけじゃないから、そこんとこ覚悟しといてよ?」
龍聖もビックリの満面の作り笑顔を作ってニッコリと微笑む。彼女はその場にスッと立ち上がってバッグを手に取り、ツカツカと高いヒールを鳴らしながら出口へと向かっていく。そして後ろ手でバイバイしながら
「お釣りはいらない。残りは好きに使いなさい。」
それだけを口にすると、甘い香りを残したまま彼女は店を後にした。