あなたと月を見られたら。
甘い、甘い、龍聖の柔らかな笑顔。愛おしむように懐かしむように私の頬に手を当てて顔を寄せるとチュッと淡いリップ音を鳴らして、龍聖は触れるだけのキスをする。
彼の骨ばった手が懐かしい。熱く熱を帯びた大きな手が、スラリと伸びた綺麗な指が私の頬を優しく撫でる。
絡まる視線、絡まる心。少しだけ空いた2人の距離がもどかしくて。その距離を少しでも埋めたくて、たまらずに彼の手に自分の手を重ねると、彼は嬉しそうに目を細めて私の手を握り返してくれた。
温かな体温。温かな気持ち。
繋いだ彼の指からは、ほのかに香ばしいコーヒーの香りがする。もう今はその香りすら懐かしい。
手をつないだままついばむようなキスを数回した後、龍聖は泣きそうな声でこう言った。
「もうここに…美月は帰って来ないんだ、と思ってた。」
「…え??」
「美月にこうして触れることも、キスすることも、もうできない。このまま別れるしかない。もう二度と会うことすらないのかもしれない、ってさ?正直半分諦めてたんだ。だから…嬉しい。すごくすごく嬉しい。」
そう言って、彼は私の体を正面から強く強く抱きしめる。
「好きだよ、美月。
もうどこにも行かないで。」
今まで聞いたことのないくらい、切羽詰まった龍聖の声。
冷たくて、現実主義者で、女の子なんてどうだって良くて、恋愛に決して本気になんてならなかった、あの龍聖が泣きそうな声で私にそんなことを訴える。
バカ!
ズルい。ズルいよ、龍聖。
そんなこと言われたら…私、何も言えなくなっちゃうじゃない。
「悪いオトコだね、龍聖は……」
そう言って彼の背中に手を伸ばして、彼を抱きしめ返すと
「それ、答えになってない。」
彼は不満そうに顔をしかめる。
「俺が欲しいのはそんな言葉じゃないんだけど?」
私が欲しがる言葉は絶対に言ってくれないくせに、自分は欲しがるだなんて、龍聖はなんて悪いオトコなんだろう。
今までは嫌いだった、この龍聖の意味不明な言動。でもこんな風に気持ちがダダ漏れなまんま、子どもみたいにスネる龍聖は初めて見たから、なんだか可笑しい。