あなたと月を見られたら。
愛のない男が囁く、愛の言葉。彼は一言も「愛してる」なんて言わないのに、どうしてだろう。……心の奥がこんなも切ない。
彼のぬくもりを感じるだけで、言葉の裏に隠された気持ちを感じるだけで、切なくて嬉しくて、泣きそうになる。龍聖に美しく彩られた愛の言葉は世に氾濫している“愛してる”なんかよりずっとずっと重く、尊く感じた。
『俺はきっと『愛してる』って言葉は口に出しては使わないだろうね。だけどね?その代わりになる言葉なら世の中にはいっぱい溢れてると思うんだよ。』
そう言った龍聖の言葉が今更ながらによくわかる。
龍聖を信じられずに疑ってばかりいた私は彼の気持ちなんて、本心なんてどうでもよくて自分が安心したいがために「愛してる」という言葉を欲しがった。
理由なんて気持ちなんて何だってよくて、ただ目に見える「愛」を欲しがった。あーぁ、私はなんてバカだったんだろう。
目に見える確かなものが欲しくて、目に見える愛が欲しくて、私は龍聖を試して、怒らせて、勝手に悲しんで、勝手に無視した。
愛に形はなく、決して目に見えない。
それはわかっているくせに、自分が安心したいがばかりに彼から言葉を欲しがった。それが、何よりも彼を苦しめている言葉だと知っていながら。
でも…でもね?
愛って感じるもの、だったんだ。
触れる体温、首すじにかすかに感じる息づかい。柔らかな視線に穏やかな空気感。それに時折龍聖が見せる熱っぽさ。
それだけで、全てが伝わる。
言葉なんて何でもいい。
言葉なんてどうでもいい。
大切なのは自分が彼をどう思っているのか、どう感じるのか。
彼を信じるには、ただそれだけで良かったんだ……。