あなたと月を見られたら。
今だ!
その瞬間、私は身をひるがえして龍聖の呪縛から逃げ出した。一瞬反応の遅れた龍聖は私を捕まえることが出来ずに、掴もうとしていた手が空を切る。
「龍聖、この場所はそんなことする場所じゃないでしょ?龍聖の夢の詰まった素敵な場所でしょ?私…今流されたら自分を許せなくなる気がする。」
「美月…」
「安心して?私、ちゃんと帰ってくるから。夜八時にちゃんとここに帰ってくるから、今はお互い仕事に戻ろう?」
そう言うと龍聖は諦めたように
「……わかったよ。」
とつぶやいた後、踵を返して近くにあった壁にドンっと背中を持たれかける。
「ホント美月って…流されてくれないよね。」
「えっ??」
「いや、こっちの独り言。」
ハァとため息を吐いて、なぜだかドッと疲れている龍聖を横目にしながら。カウンターに置きっぱなしだったカバンをサッと取ると
「あのさ、美月。今抱かせてくれないんだったら、今ここで俺の着信拒否の設定を解除してよ。」
「え??」
「あの電子音と機械のオバサンの声、聞くだけで切なくなるから。」
「う、うん、わかった。」
疲れている龍聖の顔を見るとなんだか申し訳なくなって、カバンの中から携帯を取り出してサッと彼にしていた着信拒否を解除する。
「解除したよ?」
そう言って画面を見せると
「ここからじゃ見えないから、もっと近くに来てよ。」
なんだか見てるこっちが切なくなるくらい寂しい表情をして訴えるから、放っておけなくて素直にテクテクと彼の目の前まで歩いて行って
「はい。これでいい??」
画面を見せると彼は急に悪い顔してニンマリ笑って、空いている私の左手をグッと掴む。
えぇ?!
なに??!何なの?!
完全に混乱しきった私をよそに
「自分がどれだけ罪なことしてるか思い知りな?」
悪魔の声で耳元で囁くと
「うぎゃあ!!」
彼は自分の股間に私の左手をグッと押しやった。