あなたと月を見られたら。


そんな自分を「バカ美月!」って心の中で叱りつけながら

「いいんじゃないかな。この桃のムースも三層になってて色使いも可愛いけど……洋ナシってだけで食いついてくる女の人は多いと思う。」


平静を装って、自分の気持ちを捨て去ってサラリと答える。すると龍聖は「なるほどね。」と小さく呟いて


「そっか。色合いもやっぱり大事だよな。軽けりゃいいってモンでもないか…。サンキュ、美月。参考になった。」


そう言ってにこやかに笑う龍聖を見てヤバイ、と思った。付き合ってた時はこんな風に無邪気な笑顔を見たときがなかった。こんな風にお礼を言われたときもなかった。


いつも見ていた彼の笑顔はどこか作り笑いのようで冷たくて、彼は「ありがとう」よりも「ごめんね」をよく言っていたように思う。


私は…お詫びのプレゼントと共に送られる「ごめんね」の言葉が一番嫌いだった。


プレゼントなんかいらなかった。「ごめんね」という言葉もいらなかった。私だけを愛してくれるココロと私だけを見てくれる瞳だけが欲しかった。


だから…さっき龍聖の笑顔を見てドキリとした。ありがとう、ただその一言が嬉しかった。


こんな気持ち、持ってるだけで不毛だ、とわかっているクセに。

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