あなたと月を見られたら。


ダメだ。こんな気持ちになるのはコイツが隣にいるからだ。

私は龍聖みたいな人はお断り。次に恋をする人は優しい人、って決めてるんだから。そう…隣のデスクの麻生さんみたいな人と。


だから…これ以上コイツの近くにいちゃいけない。


そう思って玲子先生に頼まれた、最後の本。美味しいコーヒーの淹れ方の洋書を探し出して手に取ると

「あ、それの和訳してる本、俺持ってるよ?」

私の動きをチラリと盗み見していた龍聖が、こんなことを言いはじめる。


和訳?!


それに驚いて中をペラペラとめくると、そこに出てきたのは謎の呪文のように複雑怪奇で発音すらできないフランス語。その下にはイタリア語でも訳されてるけど…コレを読むのはかなり困難だ、と思われた。


きっと玲子先生はカフェの写真とスウィーツは小説の中の描写の一つとして必要で、このコーヒーの本だけは細かな描写が書きたくて、私に依頼をしてきたんだと思う。

要は…カフェとスウィーツの本は写真で充分だけど、この本だけは玲子先生自身が無理なく読み込めるモノであることが必要、ってこと。


ってなると…コレをそのまま買って行ったら

『美月ちゃん、私読めないから翻訳してくれない??』

って先生が言い出すことは目に見える。



ってなると…
龍聖のその本が必要になってくる。

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