あなたと月を見られたら。
うう…!!
ど、どうしよう!!
翻訳ソフト片手に原書を訳してもいいけれど、それはとっても手間がかかる。しかも変な和訳になってしまうと、それはそれで厄介でもっと時間がかかってしまう。かといって龍聖に借りるのはなんだかシャクだし接点を持つのも、ためらわれる。
1人で悶々と考えてしまっていると、悪魔はニッコリ微笑みながら
「それ、結構オススメだよ?細かく豆の引き方に焙煎の仕方も書いてある。俺、和訳したやつも原書も両方持ってるよ。」
こんな甘い誘いを繰り返す。その言葉に思わず
「貸して!!」
と叫んでしまった私。
あっ!しまった!
そう思っても、もう遅い。
「じゃあ今からウチにおいでよ。カフェ関連の本なら、俺、山ほど持ってるから好きなやつを持ってけばいいよ。」
龍聖はそんな私を見て満足そうに微笑む。
はぁ…なんで叫んじゃったんだろ、私。龍聖の家に行っても心にちゃんとバリアを張って、アイツに侵食されないようにしないと…っ!!!
心もカラダも死守するんだから!!
そんなことを思いながら手に取っている二冊の本のお会計を済ませていると、龍聖はフラッと外に出て行く。店のすぐ近くに張り巡らされた白いガードレールに腰をかけると何故か空を見上げていた。
そんな彼を見て素直に「変わったな」と思った。
昔の龍聖はどちらかというとお日様よりも夜のネオンが似合う人だった。…というか昼間の明るい時間に会ったことがないからかも知れないけれど。
龍聖とのデートはいつも夜が多かった。仕事帰りにホテルに寄ってディナーを食べた後、部屋でセックス。そのまま朝まで一緒にいてモーニングを食べたら別れる。いつもそれの繰り返し。
だから、あんな風に空を見上げる彼を見たことがなくて、こんな風に昼間に活動してる彼を見たことなんてなかったから…なんだか違う人を見ているようで少し戸惑う。