あなたと月を見られたら。
髪だってサラリーマンしてた時にはあんなに長くなかった。ジーンズだって、履いているのは見たことがない。だから…そのギャップに少し戸惑う。今私の目に映る龍聖はよく知ってる、よく知らない人。
あの頃の龍聖と同じところと、全く違うところを見せつけられるから、頭の中がひどく混乱する。
そんなことを考えながら、お会計を済ませて外に出て
「お待たせ。」
声をかけると
「じゃあ行こっか。俺の家、自由が丘だからそこまで電車でもいい??」
龍聖はそう言って立ち上がると、私の前にスッと手を差し伸べる。
はっ?!
なに、この手!!
怪訝な顔を向けると
「本の貸し代として今日1日俺と恋人ごっこしてよ。」
「はぁっ?!」
「ってことでまずは恋人つなぎからね?」
アイツはそう言って、私の了解もなく私の左手をかすめ取って勝手に指を絡ませる。
「ちょ、ちょっと!!セクハラ禁止!」
焦った私がその手を振りほどこうとしても
「何言ってんの。貴重な本を無償で貸してあげようって言ってんだよ?これぐらいのご褒美、もらってもいいでしょ。」
悪魔はこんな理不尽な要求を突きつけるばかり。