あなたと月を見られたら。
「や、やだ!離してってば!」
必死に絡め取られた指を離そうと頑張るけれど
「甘い。行くよ。」
「う、うわっ!」
フフッと不敵に笑った龍聖に引きずられるように歩かされる私。
は、はなれない!
龍聖に繋がれた手はロックがかかってるんじゃなかろうかと思うくらいに強く握られていて、私の力じゃビクともしない。それでもアイツのいいなりになることだけは避けたくて必死の抵抗を続けていると
「離してもいいけど…そしたら本を貸す話はナシね。」
「…う、…ぐっ…」
敵はこんな卑怯なことを言いはじめる。
「悲しむだろうねー、玲子さん。読みたいのに翻訳ソフト使いながら作業するなんて時間の無駄だろうねー。」
「うぐぐぐぐ。」
「いいんだよ?美月がどうしても嫌ならこの手を離しても。でも…確実に玲子さんは困るだろうね。それに…作品を書くのも時間がかかるんじゃない??」
龍聖のいいなりになんてなりたくない。だけど本は欲しい。だって…きっと玲子先生は喜んでくれるはずだから。
いい作品にはいい資料が必要。
読みやすい資料があるなら、それを手に入れてあげたい。創作のモチベーションも上がるだろうしね。
そう思うと…今は龍聖の言う通りにしてたほうが賢いのかも…。
悔しいけど本能よりも理性を優先して、体の力をフッと抜くと
「さすが。美月はお利口さんだね。」
満足そうに悪魔は微笑む。
卑怯者。
こんな風に手をつないだことなんてなかったくせに。
『必要なくない?手を繋ぐなんてガキくさい。どうしてもくっつきたいなら腕組もうよ。』
二年前はそう言って私の手を何度も何度も振りほどいたクセに……どうして今更そんなことするのよ!!どうせするなら、あの時にして欲しかった。今じゃなく二年前にして欲しかった。
悔しい。
いいなりになってる自分も、こんなことで気持ちが乱される自分も、全てが悔しい。