あなたと月を見られたら。
悪い男のひとくくり、か。確かにそう言われればそうなのかもしれない。
龍聖は悪い男。愛のない男。冷たい男。仕事と自分にしか興味のない男。2年前は確かにそうだったから『今の龍聖も、そうに違いない』そう思っていた。
ううん、違うなぁ。そう思い込もうとしていたけど…
『月を一緒に見たい”と思うのは…やっぱり美月しかいないんだ。あの頃も…そして今も』
そう言った龍聖の表情が忘れられない。懇願するような、必死に何かを訴えかけようとするようなあの表情が全て嘘だとはどうしても思えなくて、混乱してる。
あの時の龍聖の言動は未だに意味不明。なんなのよ、月が見たい、って。そんなの一言『一緒にお月見しよう』って誘えばいいことじゃないの。今も昔もお月見したい、ってどういうことよ!意味わかんないのよっ!!
そんな怒りを向ける反面、なんだか自分がものすごく悪いことをしているようで、ひどく落ち着かない。
兎にも角にも、あの一件は私の心の棘として残ってしまっていて、思い出すたびに私の心の奥をチクリと刺す。
変だよねぇ。
龍聖にこんな気持ちを抱くなんて。
でも、そう思ってしまうのは、麻生さんが言うように見えるものだけを信じているからかもしれない。先入観だけを優先して、難しく考えすぎて、事態を勝手にややこしくさせてしまっているだけなのかもしれない。
とは言っても…、あの龍聖が“案外単純”だなんて、どう考えたってあり得ないことだけれど…。“今の龍聖”をゼロスタートから見ることは確かにいいことなのかもしれない、そう思った。
過去を知らない、最近出会った変な人。そう思えば、単純に龍聖のことを観察できる気がしてきた。