あなたと月を見られたら。


話せば話すほど、麻生さんは優しくて思いやりのある人だ、って思う。それに聞き上手でアドバイス上手だから、こっちもうっかり1から10まで話してしまう。


自分の元カレが愛のない男だったこと。外資系企業に勤めるエリートサラリーマンだったくせに、脱サラしてカフェ経営をしていること。そしてヤツのしでかした悪行の数々まで、何でも洗いざらい打ち明けてしまっていた頃


「ねぇ、牧村さん。」

「はい。」

「今日、飲みに行かない?」


木曜日の夕方頃。オフィスで麻生さんからこんな誘いを受けた。


もしかして…愛の告白?!


なーんて、甘い予感をしてしまった私は、本当にお気楽だと思う。


ないない、ないない。
麻生さんが私に告白なんてありえないから。


自分に言い聞かせながら

「あ。予定もないし大丈夫ですよ。」

と答えると、彼はホッとした顔をして

「よかった。俺の知り合いがさ?牧村さんを紹介しろ、ってうるさいんだよー。悪いんだけど三人でご飯食べない?」

こんな提案を持ちかけてくれた。



麻生さんのお友達に紹介??!!
えっ?!それってどういうこと?!
まさか、まさか…えぇーっ?!そういうこと?!!


1人で悶々と妄想を膨らませて悶絶していると

「じゃあ、今日の19時に駅で待ち合わせにしよ。一緒に出ちゃうと…噂になっても良くないし。」

人間天使麻生さんはニッコリ柔らかに微笑んで私の肩をポンと叩いた。その後、遠ざかっていく彼の背中を見ながら思ったのはこんなこと。



麻生さんなら…
きっと優しくリードして、優しく付き合ってくれるに違いない。

いやーん!!どうしよう!!


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