あなたと月を見られたら。
「俺の母親はあんまり褒められた人じゃなくてさ。いつも恋してなきゃダメで、男に依存しないと生きていけない、そういう弱い人だったんだよね。」
そんな風に寂しい目をして笑う龍聖を見たのは初めてで…私はひどく戸惑った。
「熱が出ようが、参観日だろうが、誕生日だろうが、どういう時でも子どもよりも男を優先する。外でデートしてくれるなら可愛いもんでさ?家で母親の喘ぎ声を聞かされた日には…マジで吐き気を覚えたよね。」
何でもない。こんなことよくあることでしょ?とでも言いたげな、龍聖の重い軽口。
私のお母さんはちょっとおっちょこちょいなところもあるけれど、私に熱が出たらお仕事を休んで看病してくれた。授業参観には当たり前のように来てくれた。どんな時でも母は子どもと家族を優先してくれて、他のことは二の次だった気がする。
それはとても当たり前のことで、どんな家庭でも当たり前に行われてることなんだと思ってた。そう信じて疑わなかった。
「ねぇ、龍聖。」
「ん??」
「龍聖は…お母さんからの愛を実感したことってある??」
テーブルに突っ伏したまんまだった上体をゆっくり起こして。正面にいる龍聖の顔をまっすぐに見て問いかけると
「ちゃんと愛を実感できてたら…こんな風になってないでしょ。」
彼は傷ついたように、クスリと自嘲気味に微笑んだ。