あなたと月を見られたら。


その顔を見て一番に思ったのは「うっわぁ〜、嘘くさい笑顔!あー、思い出してきた!昔おつきあいしてた時もこういう顔いつもしてたよね、この人。」ってこと。


あぁ、ヤダヤダ!この笑顔に何度傷つけられてきたことか!


久しぶりに見た龍聖の冷たい笑顔を見て、あの頃の散々な想い出を思い出してしまった私。


今見ればどう見たって龍聖は嘘くさい、胡散臭い男なのに、あの時はなーんでわからなかったかなぁ。自分の馬鹿さ加減が可哀想になってくる。



それに…よ?
なんでこのタイミングで再会しちゃうかね。この2年間、ひっそり平和にアイツの影はおろか存在すら忘れて生きてきたっていうのに…、神様はイジワルだ。



神様の起こしたタチの悪いイタズラに心底げんなりしながら玲子先生の後をテクテクと歩いて行くと

「ここにしましょ。」

玲子先生は窓際の席にバックを降ろして、ゆっくりと腰掛けた。


「ここだとマスターが働いてる姿がよく見えるのよねぇ。」


ウフフ、と笑う玲子先生の視線の先を盗み見るとそこにいたのはカウンターの奥からメニューを取り出している龍聖。


玲子先生はうっとりしながらアイツのことを見つめているけど…正直この席で良かった、と私は思った。ここは玲子先生の位置からは龍聖のいるカウンターがよく見えるけれど、私の位置からは死角になっていて龍聖の顔はおろか動きすらよくわからない。


よしよし。この位置なら仕事に集中できる。これなら玲子先生に集中して落ち着いて対応できるよね?


私には元カレを見て昔を懐かしむ趣味はまっっったくないし…、アイツのことなんてどうだっていいんだから、この場所にいれば取り敢えずは一安心かも。


< 9 / 223 >

この作品をシェア

pagetop