あなたと月を見られたら。
美月は変わってる。
いったい彼はどんな気持ちで言っているんだろう。誰と比べて言ってるんだろう。本来なら怒るべきはずの言葉なのに、温かな視線を向けて微笑む彼を見ていると分からなくなる。
龍聖は私を席に座らせると、ワインとグラスをテーブルに置いて、またそそくさとカウンターの奥へと消えて行く。
そんな彼の後ろ姿を見ながら、私はまた分からなくなっていた。
以前の龍聖はこんな風に甲斐甲斐しく動く人じゃなかった。どちらかといえば自分のために人が動くのは当たり前だ、と思い込んでいた節すらある。
だけど……
「はい、お待たせ!牛スジ肉のトマト煮込みとバケット、温泉卵のせシーザーサラダに小エビのアヒージョ、それにチーズの盛り合わせ。」
「うわぁ…すごい!!」
「美月に喜んでもらいたくて、頑張ったよ。」
カウンターの奥からトレイにいっぱいの料理を抱えて、嬉しそうに笑う彼を見てると分からなくなる。
この人は本当にあの龍聖と同一人物なのだろうか。
愛のない言動で私を傷つけた龍聖と、優しい眼差しで、穏やかな空気感で私に笑いかける彼が同一人物だとはどうしても思えなくて、頭の中が混乱する。
トレイの上に置かれた料理をテーブルに置いて、ワイングラスにワインを注いで正面に腰を下ろした龍聖と軽く乾杯すると
「夢みたいだな。」
「えっ??」
「こんな風に美月と向き合える日が来るなんて思ってもいなかったから…嬉しいよ。」
龍聖はまた、私を混乱させる一言をつぶやいた。