あなたと月を見られたら。


目の前にある素敵な料理。どれも手作りだ、という料理はどれも美味しくて、龍聖が勧めてくれたワインも美味しい。


間接照明に照らされた店内。かすかに聞こえるクラッシックのBGM。優しそうな表情で牛スジ肉のトマト煮込みを口に運ぶ龍聖を見ていたら…無性に聞きたくなった。



「ねぇ。」

「うん??」

「どうして龍聖は変わっちゃったの??」


会社を辞めた理由とか、カフェを始めた理由とか。ついでに言えばどうして自分に固執するのか、とか。聞きたいことは山ほどあったはずなのに、自分の口から飛び出した一言はとてもシンプルで、呆れるほど子供っぽいものだった。



な、何言ってんの、私!



大人な雰囲気には似つかわしくない、あまりにも幼稚な質問。しまった!と一人で焦っていると


「うーーん。価値観が変わったから…かな。」

「価値観??」

「うん。俺さ?美月と別れた後、3ヶ月後くらいにさ?上司にハメられて失職しちゃったんだよね。」

「は、はぁ?!」



龍聖からは核爆弾並みに破壊力のある衝撃的な一言が飛び出してきた。



龍聖曰く、こういうのは外資系にはよくあることみたいで…。

新しい上司は全く龍聖とソリが合わなかったらしく、ぶつかってばかりだったんだって。それが面白くなくて、どうにかして龍聖を消したい、と策を巡らせた上司は…全く関係ない他の部下の失敗を龍聖に罪をかぶせて「責任を取れ!」と彼に迫ってきたらしい。


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